IoTによって事業環境はどうなるのか

  • 2014/11/09

IoTの時代は、管制室を手に入れる時代

スマートデバイスはコクピット、IoTは動く管制室モデル

IoTの可能性は製造業やネットワーク・物理層の業界で期待されていて、PRも積極的に行われている。
インテルはIoTを戦略的に位置づけているし、物体を製造するメーカーにとっては爆発的な生産数量の拡大に期待を寄せたくなるだろう。

しかしソフトウェアや情報を扱う立場に経つと、インフラの世界の話はいまいちリアリティがない。IoTがビッグデータを提供してくれるとはいえ、ほぼ無味乾燥なM2Mのログ解析を語っているようであり、活用イメージが湧かない。

IoTが世界に多大な影響を与えることは理解できるとしたら、このリアリティのない世界を、どういうモデルで理解したらいいのだろうか。

そう考え、出した結論が「IoTは動く管制室を手に入れること」だ。

現在の管制室ビジネス

末端情報を一元化し、即時判断を行い指示へ転化させるサービスモデル

IoTのソフトウェアへの応用が管制室モデルだとする前に、管制室を必要とする事業は何かを眺めておこうと思う。

もっともわかりやすいのは、航空、鉄道などの交通インフラだ。常時、移動体を観測し状況把握を行いながら異常事象をコントロールし全体を調整していく。その指示系統の一元化のために管制室が設けられている。
試しに「管制室」というワードで画像検索すれば、ものすごい数のモニタ、それぞれに最適化された観測図などが見られる。

交通インフラ以外にも、生活サービスのなかにいくつか発見することができる。
たとえば、
・セキュリティを監視するセコムなどの警備会社
・気象を監視するウェザーニューズなどの気象情報会社
・駐車状況を監視する日本駐車場開発などの駐車サービス会社

さらに管制室の即時性を緩めてみると、
・店頭在庫を数日で捉えて、売れ筋に応じた生産調整を行うアパレル製造販売会社
・何千点にも及ぶ店舗の在庫を定点観測し、適正在庫を持つよう配送するコンビニ会社
・番組放送中のオーダー状況を見ながら、反応に応じてトークを変えるTV通販会社
なども、システム全体では管制機能を持っている。これらは指示系統が管制室に集中しているわけではないが、いったん集められた情報から指示を行うシステムとしては情報が一元化されている。

こうして管制室(あるいは管制室に近いシステム)を持つ事業を見てみると、広範囲に点在する末端情報を集約し、その情報から状況変化を感知し即時対応するモデルだ(あるいは異常を検知することがビジネスになっている)と言えそうである。

センシングは神経系、管制室は頭脳

いまIoTでインフラやハードウェアの業界が盛り上がるのは、多様なセンサー技術を個体化してばら撒くことが予想されているからだ。情報の量が飛躍的に増えるというのは、状況が分かるようになるということだ。IoTに関して、この点が分かりにくいことはない。また、ハードウェアが増えるというのは物量が拡大する世界なので、モノのインターネットの盛り上がりのうちハードウェアに関しては生産数量の拡大を意味している。したがってこれまで同様に、規模の経済性の追求や、デファクト・スタンダードの覇権争いになっていくだろう。

しかしセンサーは、あくまでも各所に点在する情報の収集システムでしかない。身体でいえば指先でものを感じたり、視力・聴力で光や音を検知したりするような末端神経の働きだ。これらの情報は伝達される必要があるのと同時に、個人の脳によって処理されてはじめて意味がある。この頭脳にあたるものが管制室になる。

つまり、一元化する情報から、何に反応をするのか?という即時反応ベクトルを決めることが必要になる。管制室モデルでは、ビジネスモデルに合致した情報を選んで拾えばよいわけで、すべてに反応をする必要がない。
先に見た事例では、警備会社は侵入異常への反応、気象会社は生活に影響を与える天候変化への反応、駐車場サービスは空状態への反応、となっていく。

こうしたことから、IoTを事業的に捉えたときには、事業機会を神経系・頭脳系のいずれに見出していくのか、あるはそれ以外に見いだしていくのか、まず切り分けておく必要はあるだろう。そこからの、どんな具体モデルを組むかという話になっていくことになるだろう。

これまでも存在している世界・・・なのか?

IoTは今にはじまったことではない・・・。という話は一理ある。それはおそらく、すでに管制室を持つ事業が存在していることと同義であるし、コマツの建機にはセンサーが搭載されている・・・という類の話もあるからだ。

しかし、IoTが提供する話題は技術構成の話ではなく、物量によって掛け合わされるパターンが飛躍的に拡大することへの期待だ。極小化し低コスト化されたセンサー端末が、あらゆる場所(街中・地中・水中・空中も!)にバラまかれ、データを送信し続ける。そのデータも気象情報から通行情報まで多様であるし、顔認識のような解析ソフトを組み込んだものまで存在するだろう。データの受信も可能であるから、無人化もできるし、対ウィルスソフトが定義ファイルを更新するようにOSをアップデートすして進化もさせられるだろう。

バラまかれる端末の物量が飛躍的に増加し、データの掛け合わせによってデータ流通のパターンが拡大することが、IoTによってもたらされる世界であり、それはまだない世界だ。
しかもいずれ、各事業者内にとどまっていたデータは無力化されていくだろう。データそのものの価値が薄れてオープン化され、事業の主体以外も手に入れられるようになっていく。(なぜなら他でも出来るようになるからだ)

一方で、データそのものよりも、反応のベクトルやその指示系統に価値がうまれていく。
集められたデータで何をするのか?という観点から見れば、新しい活動へデータが還元されるところに価値が生まれていくからだ。

そのため、IoTによる情報を集めた結果、どのベクトルで何を提供していくのか?を考えていくと、既存の管制室モデルの考え方である程度は理解することができるだろうし、抽象度をあげていえば既に存在しているとも言える部分だ。

データはどこへ行くのか?何に使われるのか?

蓄積し分析する対象ではなく、電気信号のように流通し続ける対象へ

センサーが生み出した膨大なデータは、今のところビッグデータという名のもとに分析対象物の意味に集約されているようだ。しかし未来はもっと単純になり、データがフロー化していくだろう。
データのフロー化を前提にすれば、事業者はフロー化した大量の意味データを扱うことにフォーカスを当て、データを制御するデータ配送システムを設計していくことになる。

データがフロー化する点は、単純な分析系の事業に価値がなくなっていくかもしれない点で重要だ。
データ量が増えるということは、いずれ大数の法則に則っていくということである。これまで分析でしか手に入れられなかったものが生のデータで手に入るようになる。

具体的なイメージで考えてみよう。
たとえばゲリラ豪雨の検知をどうするか。分析的なアプローチでは、地域別の発生率を捉えて確率で計算することになる。これは分析系のアプローチであり、従来の手法であった。観測する端末が高価で限られていた場合、点在させた測定値を元に分析し、統計的な確率を算出することが合理的なアプローチであった。

しかし、これからは測定端末が敷き詰められていくのだ。何かが起こる確率を分析によって求めるよりも、正確に素早く、起きている事象を捉えられるようになる。したがって従来の分析アプローチの延長線上にビッグデータの扱い方を描くことはできなくなる。むしろ、数あるセンサーが近隣のゲリラ豪雨をキャッチし、その情報をスマホの画面に描画し、現在地域nKm圏内に入ったら通知を出す、という単純なデータフローが設計されていくだろう。ビッグデータは分析対象として拡大するのではなく、データはフロー化し、情報を配送するシステムが整っていくことになる。(ゲリラ豪雨を分析(移動経路、気温など他の変数と合わせて傾向を出す意味)し、そこからどうするか、というのはもっと研究的なアプローチになる。)

集められたデータや情報に基いて、指示系統が増えていく

道端に固定された石ころのようなセンサーであれ、Google Glassのような移動体センサーであれ、情報は役立てられるために集められる。
単純にフロー化したデータは信号としてイベント発動の役割を持つが、この先にどのようなアクションを発生させるのかは多様だ。

同じゲリラ豪雨情報でも、天気アプリにも使えるし傘の販売にも使える。
このサービスのベクトルが持つ多様性は、データ量の掛け合わせの数に応じて飛躍的に拡大するだろう。

集めたデータから何をするのか?が各事業ごとに分かれていく、あるいは指示系統が増えていくことを事業環境変化として捉えておくと、その中で果たす役割も見えやすくなる。

メモ

未分類

■インターネット転換期の過去と未来。日本のモバイルゲーム第一人者が考えるIoT
http://www.gizmodo.jp/2014/06/iot.html

■2020年、「モノのインターネット」開発者への需要は450万人に
http://internetcom.jp/webtech/20140701/2.html
・VisionMobile による最新のレポート「IoT: Breaking Free From Internet And Things」
・開発者ネットワークを作り出すことに成功した企業が勝者


■マイクロソフト、モノのインターネット標準化団体「AllSeen Alliance」に参加
http://readwrite.jp/archives/9439
AllSeen Allianceは、スマートホームを取り巻く全ての端末を対象とした共通のワイヤレス技術とコミュニケーション・プラットフォームを作ることを目的としている。AllJoynはオープンソース化されたスマートホーム向けのコミュニケーション言語で、もともとはクアルコムのInnovation Centerが開発したものだ。

■庭や畑に置く土壌センサEdynがKicistarterで目標額の3倍に達しそう
http://jp.techcrunch.com/2014/07/03/20140702edyn-kickstarter/
・庭に置いておくと、光量、湿度、気温、土壌中の栄養分などを調べてくれる

■ネットが「リアルを上回ってきた」--楽天・三木谷氏が語る“再定義”
http://japan.cnet.com/news/business/35050360/
IoTが発展すると、これまでになかったようなサービスが生まれてくるという。なぜそのようなことが起こるのか。三木谷氏は「あらゆるものが再定義される時代がきている」と説明。その例として、C2Cの宿泊マッチングサービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」、オンデマンド配車サービス「Uber」などを挙げる。
 「再定義によって何が起こっているかというと、今までなかったようなサービスが使えるだけではなくて、そのサービスの品質が“より良いステージ”にまで到達している。つまり、『インターネットでとても便利になった』という今までの状況から、『インターネットでしかできないサービス』あるいは『リアルの体験を上回るサービス』が次々に出現している」(三木谷氏)。

■インテルとサムスン、「モノのインターネット」の標準化を巡る戦いに参戦
http://readwrite.jp/archives/9849
彼らが新たに発表した「Open Internet Consortium」は、今後のネット接続デバイスの支配を巡って他のワイヤレス標準化団体と競うことになる。
→ 標準化?・・・

■【大進撃AirBnB、「家の短期レンタル」合法化へ】
http://readwrite.jp/archives/9785

■モノのインターネットには2020年までに何百万人もの開発者が必要となる
データが増えるほど開発者が必要となる
→ のか?
実際に何を構築するのか?


■気候~環境データを何でも送信する飴玉サイズの超小型センサ集合+送信機Clime
http://jp.techcrunch.com/2014/07/10/20140709clime-sensors-are-tiny-tags-that-tell-you-when-things-are-heating-up/

■半導体の基礎知識(4)――IoTを定義しよう
http://ednjapan.com/edn/articles/1407/14/news007.html

■コレ1枚で分かるIoTとビッグデータの関係
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1407/16/news054.html

■今のアプリビジネスは、その大多数が持続不可能だ
http://jp.techcrunch.com/2014/07/22/20140721the-majority-of-todays-app-businesses-are-not-sustainable/

■Samsung、モノのインターネットのSmartThingsを2億ドルで買収
http://jp.techcrunch.com/2014/08/15/20140814smartthings-acquired-by-samsung-for-around-200-million/
製造メーカーの流れ


■IDC調査-各市場の定義と市場規模の算出方法
http://japan.zdnet.com/cio/sp_14iot/35052086/2/

■「モノのインターネット」が未だに開通しない理由
http://readwrite.jp/archives/11965


■「モノのインターネット(IoT)」製品の70%にセキュリティ問題
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1407/31/news038.html


■Android LでBluetooth 4.1をサポートし、IoTに向けた第1歩へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/20140822_663205.html

■2018年に20兆円に達するM2M/IoT市場--NTT Comが考える機会と課題
http://japan.zdnet.com/cio/sp_14m2m/35053156/

■「Hardware is the next software」---シリコンバレー在住VCが語るシリコンバレーの現実
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20140904/374303/

■第5回 IOTで変わる私たちの暮らし――ヒト/モノ/データの新しいつなぎ方
、IOTとヒトおよびデータのつながりを設計する「ユーザーエクスペリエンス(UX)デザイン」
http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1409/08/news007.html

■【ABIリサーチ調査報告】ロボットのモノのインターネット
http://www.dreamnews.jp/press/0000099173/

■セールスフォース、IoT分野に特化したファンドを設立--1億ドル
http://japan.zdnet.com/cio/analysis/35053505/

■物のインターネットにメッシュネットワークを構成させるOpen Garden…インターネットがなくても互いに通信して情報を伝達
http://jp.techcrunch.com/2014/09/09/20140908open-garden-expands-its-mesh-network-to-the-internet-of-things/

■モノのインターネットは巨大になるだろう、そしてHadoopも
http://readwrite.jp/archives/13450

■ソフトウェアの時代は終わったのか?
http://readwrite.jp/archives/12499

■Google買収戦略 20の事実
https://newspicks.com/news/602949/?more=true
・近年はIoT多い、Google X

■IoTを加速させる、安価な「蟻サイズの無線装置」:米大学チームが開発
http://wired.jp/2014/09/17/ant-size-radio/?fb_action_ids=10204563758715227&fb_action_types=og.likes

■グーグル、「Physical Web」プロジェクトを発表--URL使用でIoT機器接続を可能に
http://japan.cnet.com/news/service/35054656/
・URL割り当て

体験

■ネット対応の雨量計で個人のためのIoTを体験する
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/watcher/14/334361/090700046/

分かりやすい解説

■わかりやすいIoTの実用例とモテるためのウェアラブルデバイスまとめ:IDF2014
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/256/256742/

■そもそもIoTとは何か?「2014年のIoT」は何を意味するかを理解する (1/2)
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1409/22/news012.html

■IoTは従来のビジネスモデルをガラリと変えるパワーを秘める
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/343565/101500003/

製造業

■【第11回】Industrial InternetとIndustry 4.0にみる製造業へのITインパクト
http://it.impressbm.co.jp/articles/-/11707

プロトコル・標準

■IoT時代に知っておくべきテクノロジーと課題
http://codezine.jp/article/detail/7751

■IoT時代を支えるプロトコル「MQTT」(前編)
http://codezine.jp/article/detail/8000

セキュリティ

■凄腕のハッカーはなんでもできる? 研究者がキヤノンのプリンターに「DOOM」を完全移植
http://www.businessnewsline.com/biztech/201409170547190000.html

  • 2014/11/09